旅行記

心が折れたインドの話

出発前日、不浄の手デビューするかもしれないので両手の爪を深爪気味に切った。
荷造りの完了したバックパックは意外にも軽くて安心した。

出発当日は午前中は仕事に出た。
夫はすでに休みに入っていたので、日暮里で待ち合わせて成田に向かう。

成田空港ではアライバルビザ(VOA)の申請用紙(2枚綴り)をもらった。
親切なことに、記入例の紙ももらった。
デリー着まで乗り換え待ちでほぼ24時間も余裕があったので、待ち時間に書いた。



機内ではオオカミこども~と宇宙兄弟を観た。

デリーには予定より1時間早く着いた。
早速VOAカウンターに向かう。VOAは空いてるという情報だった。ビザ発行までのだいたいの所要時間は10~15分?

VOAカウンターへ行くとすでに日本人が数人居た。
カウンターの向こうのインド人に話しかけると申請用紙を出してきたので、「もう持ってるよ~」と伝えると、「座って待って」と言われた。とりあえず座る。

30分が経った。日本人が増えてきた。

20分が経った。私たちより前に来ていた日本人がついにVOAを発行してもらっていた。

これは・・・・・と思ってとりあえず用紙を提出しとこうとカウンターに行く。が、やはり「待て」と言われた。夫はここで心のスイッチがOFFになった顔をしてイスに戻っていった。
私は立ったまま待つことにした。

ようやく私たちの番が来た。

が、書類を見せると受付の人は白紙の用紙をぴらぴらと見せながら
「ハハハハ(ちょー乾いた笑い) アゲイン」
と言った。

要するに、2枚綴りはダメで両面印刷になっている1枚の状態のこの用紙に書けということだった。

無心になって書き写した。

なんとかVOA許可がおりてビザを発行してもらった時には22時頃になっていた。
3時間弱かかった事になる。

インドビザオンアライバルVOA
ビザ・オン・アライバルを去る時に撮った一枚

いそいそと準備をしているとNEW日本人が。
その人は、さっき空港に着いたらしい。私がカッカしてしまっていたからか、相手のゆとりある様子がとても印象的だった。私たちが19時からここに居ることを伝えると顔色が変わった。

その人の友達がインドに住んでいるらしく、その友達いわくメトロが止まっているらしい。とのこと。
今度は私たちの顔色が変わる番だった。

エアポートメトロでオールドデリー駅までいく予定だったのに!

事故か何かがあったからかはわからないが、本当に止まっているっぽかった。

ひとまず両替をすることにした。私がルピーを全部持つ事になった。
250ドルが12,900ルピーになった。

デリー駅方面の路線バスを探すことにする。(正直、見つかる気がしなかった)

ついに空港の外に出た。
私たちの近くを歩いていた日本人の女の子4人組はツアーを組んでいるらしい。彼女たちを迎えたガイドらしき人はターバンを巻いていて、髭もきれいに生えそろっているいかにもなインド人だった。
女の子たちはそのガイドを見てテンションが上がっている模様だった。
私も仲間に入れてほしい、と、ふと思った。

夫の「よし、気を引き締めよう」の言葉で、気持ちを切り替える。
デリーでの歩き方は、「さも自分の行くべき場所を知っているかのような堂々とした歩き方がいい」と聞いていたので、オールドデリー駅への行き方が全くわからないが、とりあえず颯爽と歩いた。

バスが停まっていたので近くのバス店員らしき人に夫が聞く(私はこの人が本当にバス店員なのか疑った)。
このバスがデリー方面行きらしい。

ここで初めて客引きに。しつこそうだった。華麗にスルーした夫を見て感心した。

バスに乗り込んだ。メトロが無い今、バスを使う日本人も居そうだが、全く来ないままバスは出発した。

バスの切符売り(バス運転手と切符売りの2人組体制)に「(オールド)デリーに行く?」と聞くと「うんうん」と頷く。信じるしかない。

結構揺られる事数十分。バスの運転手に「デリー着いたよー」と案内してもらいいそいそと降りた。

ニューデリー駅だった。

脳内で「笑ってはいけない~」の効果音『ででーん!』が一回鳴った。

NEW DELHI STATIONの看板は文字の部分が赤色に光っていた。
(特にNEWの赤文字部分が印象的に記憶に残っている)

二人して「げっ!!!!」って言った。
NEW・・・ニューデリーかぁ・・・。

とりあえず駅の改札付近に向かう。ロータリー的な場所を横切る形で向かっていたら、波状攻撃のようにタクシーなどの客引きが声をかけてくる。
「メインバザー!?(メインバザールまで乗るか?)」って言ってた。

夫は颯爽と客引きを無視しながら歩いていく。それに続いた。
ニューデリー駅の明かりの元で地球の歩き方とか見ながら、どうやってオールドデリー駅に向かうかを夫と話そうと思っていたが、駅は人でごった返しており、留まる場所がなかった。
ぐるーっと周ってなんとか立ち止まっても邪魔じゃないスペースを発見。

地球の歩き方を出して開こうとすると一人のインド人が話しかけてきた。

夫がオールドデリー駅に行きたいという事と、メトロの駅はどこにあるのかを聞いてみてくれた。
私は地球の歩き方のメトロ路線図のページを見ていた。

インド人(精悍な顔つきをしていたので以下ジャスティスと命名する)は自身の携帯電話で時刻を見せてくれた。
22時40分くらいになっていた。この時間はメトロはもう終わっている(止まっている)と言いたかったようだ。

ジャスティス


ジャスティスは、ニューデリー駅の改札の方に言って駅員さんに聞いてみろ、と言ってきた。
改札近くに行ってみる。
ちなみに改札と言っているが、実際には日本のような改札はない。ホームへ向かう途中に手荷物検査場がある。そこを通ってホームに行く。切符などは見せない。

駅員のような制服を着た人が見当たらなかったので、とりあえず地球の歩き方で地図を見ようよ、と提案する。
地球の歩き方を開こうとすると、ジャスティスがやってきた。
手荷物検査場に居る人に聞くといいと言ってきた。夫はまた私たちのもとへ来てくれたことに対してお礼を言っていた。
私は地球の歩き方を開き、ニューデリー駅周辺地図を見ていた。

手荷物検査場に居たのは駅員ではなさそうなおじさんだった。
(銀行のATM付近にいる、警備員のおじさん的雰囲気)
夫に気づいて、話しかけてきた。

おじさんと夫の会話は全く聞いていない。地図を見ていた。
ニューデリー駅からオールドデリー駅まで4キロ~5キロくらいと見た。歩ける距離だと思っていると、おじさんが列車のチケットを見せるように言ってきた。
EチケットなのでA4の紙だ。本当はおじさんに渡したくなかったので、おじさんが怪しい行動をしたらいつでもEチケットを取り返せるようにおじさんにかなり接近した。

おじさんは「これはただの紙だから、チケットとしては無効だ」と言い始めた。
私は「へえ」と言いながら、ただの紙を返してもらった。

おじさんは続けて、「今日はニューデリー駅からの列車も中止になっているのがいくつかあるんだ」と言い、ヒンディーらしき字で書かれている紙が壁に貼ってあって、それを指差した。

なぜ中止なの?と聞くと「ナショナルホリデイ!」と言った。
そこだけちゃんと聞き取れた。ナショナルホリデーって便利な言葉だなぁと思った。

おじさんはただの紙をチケットに換えてくれ、なおかつ列車のことに詳しい人がいる場所を教えると言った。メモを差し出す。私はピンときてしまった。

おじさんはまさか、、、アルファベットを書くのでは、、、?



案の定D-T-T・・と書いてる所を見て、2回目の「ででーーん」が鳴った。


おじさんは「D-T-T-D-C」と書ききった。
DTTDCとは政府系旅行社という意味らしい。私はこの言葉が出てきたらほぼ旅行店詐欺だと思った方がいい。と友達から助言をもらっていた。

おじさんの直筆D-T-T-D-C


真に受けていたらしい夫に必死に伝えた。
チケットはこの紙がEチケットとして機能するから、換えなくて大丈夫。
政府がやってるお店は今の時間は開いていないと思う。
さっきのジャスティスと、このおじさんはグルだと思う。
なにより、今会ったばかりの人たちより私を信じてよ!と。

夫は目が覚めたようだった。
(「そうだ!ここはインドだ!」みたいなこと言ってた気がする。)

多分、ニューデリー駅を出ようとしたらもっかいジャスティスが来るから。
もしジャスティスの親切心で来てくれたのだったとしても、ここは黒だと思って相手にしないようにしようと言った。(顔はジャスティス顔なんだ、ほんと)

とりあえずおじさんの近くで地図を確認している風を装って、オールドデリー駅への道順を確認することにした。

地球の歩き方にある地図を確認し、オールドデリー駅へ行くにはニューデリー駅の線路を挟んだ反対側へ回らなければならないと判断した。

おじさんに(惑わせてくれた)お礼を言い、手荷物検査場から離れた。
反対側へ回る道を探そうと一旦ニューデリー駅の建物から出ようとすると、案の定ジャスティスが来た。
夫に「どうだったんだ?」的な問いかけをしたけど、2人ともダンマリ&無視を決め込む。

でも、顔はジャスティス顔だし真摯な表情なので、無視するのも悪いなぁと思った夫が、歩いて行く旨を伝えた。

それまで発音もわかりやすく流暢に話していたジャスティスはいきなり英語がわからなくなったらしい。

夫「We are going to Old Delhi Station by work.」

ジャスティス「・・・?sorry?」(精悍な顔つきで)




私「・・・・・・sorry?(精悍な顔つきで)・・・・・・・じゃねーーよ!!!さっきまで英語で話してたろうが!!!歩いてオールドデリー行くとかこんな簡単な英語をわからないふりしてんじゃねーーよ!!(にこやかな顔つきで)」
と、かなり小声で言った。(夫は私の悪態に気づいていなかったようだ)

きっと次のシナリオは政府系旅行会社へ行こうとする私たちの元にジャスティスが再登場、「そこなら知ってるよ」と案内する予定だったんだろうと勝手に想像。

ジャスティスはニューデリー駅の建物を一歩出た途端追ってこなかった。

一歩出た途端、タクシー(リクシャー)の猛烈な客引きが始まる。
客引きの何が疲れるって、近い。ものすごく間合いが近い。神経を尖らせてしまう距離感。そしてめげない心。
私たちのHPは徐々に削られていった。

ニューデリー駅中央口(ジャスティス&おじさんのいたトコ)から離れ、建物外側を見回しながら右側へ行くと、2階に上がるらしき階段を発見した。(学校の部室のある建物の2階へ行けそうな雰囲気の、全く駅っぽくない階段)

階段に座っている人が数名いる。階段を上がっていく人が何人かいた。
降りてくる人の方が多いなぁって印象が残っている。

「どうする?」と、夫。
「いこ!」と、私。

近づいてみると、階段には段ボールのようなもの(と私は記憶してたんだけど、夫曰くちゃんとしたプラカードだったとの事)に「NO ENTRY」と書かれたボードがぶら下がっていた。
階段に座っている人たちが「No No」と言ってきた。
なんとなーくめんどくさそうだったので一旦離れる。

「どうする?」と、夫。
「多分もう少し先にもこの階段がついてる気がするからいこ!」と、私。

案の定少し歩いた先にも階段がついていた。
こっちの方が人通りが多い。

階段に向かって歩いていると、手荷物検査場にいたおじさんがやってきた。
おじさんは一人で手荷物検査場にいたはず。持ち場を離れていいのか。

おじさんは私たちに政府系旅行会社に行ってほしいようだ。
「リクシャー呼んであげるよ」的なことを言っていた。
おじさんの隣にいる客引きがまさしくリクシャー乗りだがな!
おじさんの話に乗ってしまうと、おじさん御用達(グル)のリクシャーに乗せられるんだろうなと思いつつ無視した。

階下にたどり着く。
やっぱり階段に座っている人もいたが、人通りが多い分、私たちだけを止めることはしないだろうと思ったので階段を上ることにした。

ニューデリー駅の反対側に行くのにお金はかからないという事と、旅行者から通行料を取ろうとする一般インド人がいることを歩き方先生に教わっていたので、階段に座っている人が何をしようとしているかもわかった。

私たちが近づくと、階段に座っている人たちがやっぱり「No No」と言ってきた。


「なんでだ?ほかの人は階段上がっているじゃないか。私たちも通れるはずだ。」



なーーんて事を真っ向から話しても時間の無駄無駄無駄ぁぁ!



決然とした態度。
無視に限る。

私たちと同じタイミングで階段を上ろうとしたインド人1名も「No No」の人たちに翻弄されていた。
「えぇえぇ?だめなのー??」って感じで目が泳いでいた。

「NoNo」のうち1人は「ポリスに電話する」と言って携帯電話を取り出した。

「どうぞ」(日本語)と言って私は携帯電話を耳に当てる「No」人の目の前に仁王立ちし、腕を組み、凝視した。

「No」人は携帯電話を耳にあてたまま、いつまでたっても話し始めなかった。


ニューデリー駅の反対側へ向かうべく階段を上り進行方向へ向く。
ふと、右に目が行く。
ツーリストインフォがあった。

「ここかー!」とテンションが一瞬上がった。

ツーリストインフォにたどり着くのがとても大変と聞いていたので、納得した。

階段部分にはNoNo人。2人だったからよかったものの1人だったら階段上れなさそう。
なにより階段の雰囲気。
ハハッッまさか。この上にはありそうにないなぁと思わせる何かが一役買っているに違いない。

ニューデリー駅は大きかった。端から端の線路まで2~300mはあったと思う。

階段部分を離れれば誰も話しかけてこない。人通りも少ない。

ニューデリー駅着いて以来の静寂が訪れた。


私は初めて弱音を吐いた。

「もうこの場所から動きたくない。反対側に降りたくない。」

こんなこと真顔で言っちゃうと白けるので、夫には冗談っぽく言った。
でも本心だった。

夫も全く同じことを思っていたようだ。

「どうする?」と。

「どうする?」には言外に『オールドデリー駅に向かうのを諦めて、そこらへんで宿探して入るか』が含まれているように感じた。

「どうする?」と一定の間を置きつつ優しく聞いてくれる夫。

『オールドデリー駅に向かうのを諦めて、そこらへんの宿に入り、ふかふかのベッドにバタッと倒れこむ私』の妄想が止まらない。

同時に安西先生が語りかける。
「諦めたらそこで
『うあーーー』
と安西先生に被せて叫ぶくらい心が折れつつある私。

「どうする?」と夫。


それまでは結構飄々とこうしよ、ああしよ!と言っていたけど、


「・・・ちょっと・・・わからない。」と私。

ぼっきぼきに心が挫折した瞬間だった。

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